こんにちは。
葛飾区立石不動産会社、株式会社福寿アセットの小泉賢修(こいずみ けんしゅう)です。前回は「相続税の節税対策:特例、控除、節税ポイントの解説」についてお話をいたしました。本日は「意外と知らない相続放棄の手続き」というテーマでお話しさせていただきます。
◆相続放棄の基礎知識
相続が発生すると、相続人は「単純承認」「相続放棄」「限定承認」の3つの方法から選択する必要があります。それぞれの方法には特定の手続きや影響が伴います。
◆相続の種類
・単純承認
単純承認とは、亡くなった相続人のプラスの財産とマイナスの財産の全てを無条件で相続することです。特別な手続きを行う必要がなく、相続が開始したことを知ってから3か月以内に何も手続きを行わなければ、自動的に単純承認を選択したとみなされます。なお、相続人が被相続人の財産の一部を処分した場合も、法律上、単純承認をしたとみなされます。
・相続放棄
相続放棄とは、亡くなった被相続人の財産を相続する一切の権利を放棄することです。相続放棄を行った人は「最初から相続人ではなかった」ものとして取り扱われます。このため、プラスの財産を相続することはできなくなりますが、借金などのマイナスの財産も一切引き継がないので、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合に有効な方法です。 相続放棄を行うと民法上は「最初から相続人ではなかった」ものとして取り扱われますが、相続税の計算では相続放棄がなかったものとして法定相続人を把握し、法定相続分や基礎控除の計算を行います。このため、民法と相続税で相続放棄の捉え方が異なることに注意が必要です。 ・限定承認
限定承認とは、プラスの財産の範囲内で借金などを弁済し、残った財産があればそれを引き継ぐ方法です。プラスの財産以上の債務を相続しなくてすむため、借金の金額がはっきりしない場合や、財産の中に自宅などが含まれており、相続放棄をしたくない場合に有効な方法です。
◆相続放棄の期限
相続放棄を行うためには、相続開始を知ってから3か月以内に相続放棄申述書と戸籍などの必要書類を家庭裁判所へ提出しなければなりません。被相続人の財産や借金などを調べるために時間がかかり、相続放棄をするかどうかの判断が3か月以内にできない場合は「熟慮期間の伸長」を家庭裁判所に申し立てることができます。家庭裁判所に認められれば、半年、1年、それ以上期間を延ばすことができます。
◆相続放棄に必要な書類
相続放棄には、相続放棄申述書を作成し、戸籍謄本などの必要書類の提出が必要です。これらの必要書類は「亡くなった方と相続放棄する人の関係性」によって異なりますので注意が必要です。
◆相続放棄を行う際の注意点
相続放棄は相続放棄申述書と必要な書類を家庭裁判所へ提出し、家庭裁判所での審理を経て受理されます。家庭裁判所の審理では「明らかに却下する理由がない限り受理されるべき」とされているため、基本的には相続放棄は認められます。ただし、書類に不備があったり、3か月を既に経過していたり、単純承認が既に成立していたりした場合には、却下されてしまいますので慎重に手続きを行う必要があります。
◆相続放棄をした場合の相続税申告の注意点
相続放棄をした場合には、相続税の計算が非常に難しくなります。理由は、相続放棄をなかったものとして考える論点と、相続放棄があったものとして考える論点が異なるためです。相続税の計算においては、相続放棄がなかったものとして法定相続人を把握し、法定相続分や基礎控除の計算を行います。このため、専門家に相談して正確な計算を行うことが重要です。
◆相続放棄を兄弟姉妹でまとめて行う方法
相続放棄は各相続人の個人の意思で行うものですが、兄弟姉妹など同一の相続順位である場合にはまとめて相続放棄を行うことができます。相続放棄をまとめて行うことで個別に行うよりも必要になる書類が減り、手続きにかかる手間も減ります。また、司法書士や弁護士などへ依頼する場合には、まとめて依頼する方が個別で依頼するよりも費用が安くなることもあります。
◆まとめて行えるのは同一順位のみ
相続放棄をまとめて行えるのは、同一順位の相続人と配偶者に限られます。配偶者は常に相続人となり、それ以外の相続人には順位があります。
- 第一順位:亡くなった人の子、子が亡くなっている場合には孫(直系卑属)
- 第二順位:亡くなった人の親、祖父母(直系尊属)
- 第三順位:亡くなった人の兄弟姉妹
相続人に第一順位の相続人がいる場合、第二順位・第三順位の人には相続権がありません。第一順位がいない場合には第二順位の人、第一順位・第二順位がいない場合には第三順位の人に相続権があります。配偶者は相続順位に関わらず、常に相続人となります。
例えば、被相続人に配偶者と子が2人(長男と次男)、両親、弟がいる場合で全員がまとめて相続放棄を行う場合はどうなるのでしょうか。この場合、初めに配偶者と第一順位である長男と次男の3人がまとめて相続放棄を行います。その後、第一順位の相続人全員が相続放棄を行うと、後順位である第二順位に相続権が移ることになりますので、親が相続放棄を行い、最後に被相続人の弟が相続放棄を行うことで全員の相続放棄が完了します。先順位の相続人の相続放棄が受理された後でなければ、後順位の相続人は相続放棄することができませんので、相続放棄を行う順番には注意が必要です。
◆相続放棄をまとめて行う場合の注意点
相続放棄をまとめて行う場合には次の点に注意しましょう。
・次順位の相続人に配慮が必要
同順位の人がまとめて相続放棄を行うと後順位の人に相続権が移ります。被相続人に借金があった場合、後順位の人が借金の催促を受けてしまうなどの問題が発生する可能性があります。相続放棄したことを後順位の人へ報告する義務はありませんが、相続トラブルを防止するためにも、相続放棄をした旨の連絡などの配慮が大切です。
・相続放棄しても保存義務が残る場合がある
相続放棄が受理されると被相続人の財産とは一切関係がなくなります。しかし、不動産などの相続財産を「現に占有している」場合は、相続放棄後も管理義務が発生します。この保存義務(旧:管理義務)については2023年4月に民法改正が行われ、次の管理者が決まるまでの間、相続放棄者が管理を行うことが求められます。
例えば、被相続人が所有する自宅に一緒に暮らしていた相続人が相続放棄をした場合、「現に占有している」と見なされるため、相続放棄後も次の管理者が決まるまで管理義務が発生します。
◆相続放棄は誰に相談すればいい?
相続放棄の手続きは人生で何度も経験することではないため、「どのような手続きなのか」「本当に相続放棄を行った方がいいのか」など、不安になることもあるでしょう。そういった場合は、一人で悩まずに司法書士や弁護士などの専門家へ相談しましょう。信頼のおける専門家が周りにいない場合は、弊社へお問い合わせください。
いかがでしたでしょうか?
本日は「意外と知らない相続放棄の手続き」というテーマでお話させていただきました。最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。