こんにちは。
葛飾区立石の不動産屋 株式会社福寿アセットの小泉賢修(こいずみ けんしゅう)です。本日は「世界から見た「日本の相続制度」はここまで違う~各国との比較で見えてくる“本当の課題”~」というテーマでお話しさせていただきます。
■日本の「当たり前」は世界の「特殊」かもしれない
「相続財産で親族もめた」「税金が高い」「何から手を付けていいかわからない」——そんな悩みが尽きません。実際、家庭裁判所における遺産分割事件は年間1万件以上。さらに、相続税の対象となる人は全体の8%程度とされていますが、そのうちの多くが「都市部の不動産が高く評価されてしまった一般家庭」です。
一方、世界を見渡すと、日本の相続制度は決して「グローバルスタンダード」とは言えません。むしろ、自由度が低く、税負担が重く、トラブルが起きやすい仕組みになっているのです。
今日は、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、シンガポールといった主要国と日本の相続制度を詳細に比較しながら、日本の制度がどこでどう違い、何が課題なのかを明らかにします。
■アメリカ:自由と信託が支配する合理国家
アメリカの相続制度は「自由」の一言に尽きます。
【遺言自由主義】
遺言があれば、財産の分配は完全に自由です。子どもや配偶者に一切渡さず、すべてをペット保護団体に遺贈するような内容でも、基本的に法的効力があります。
これは「遺留分」が存在しないためです。
つまり、相続は「本人の最終意思」がすべてという考え方。これは、個人主義・自己責任文化が根強いアメリカらしい制度設計といえるでしょう。
【生前信託(リビングトラスト)】
アメリカでは信託制度が非常に発達しており、「リビングトラスト」と呼ばれる生前信託が広く活用されています。これは以下のような特徴があります。
・財産をあらかじめ信託名義に移すことで、死亡後に裁判所を通さず承継が可能
・認知症などで判断能力がなくなっても、信託受託者が財産管理を継続できる
・遺言と違い、プライバシーが守られ、訴訟リスクも低い
この信託文化があることで、アメリカでは“争族”が起こりにくくなっています。
【相続税】
アメリカには連邦政府と州政府による相続税制度がありますが、連邦相続税の基礎控除は約1,200万ドル(約18億円)と非常に高額で、ほとんどの家庭は課税対象外です。
■ドイツ:遺留分はあるが、贈与と合理性で資産承継
ドイツも日本と同じく遺留分制度を採用していますが、非常に計画的な資産移転が可能な国でもあります。
【遺留分制度の運用】
ドイツでも法定相続人に遺留分が保障されています。ただし、日本よりも柔軟で、遺言による配分もある程度自由が認められています。
【生前贈与の優遇】
ドイツの大きな特徴は、「10年ごとにリセットされる贈与税の非課税枠」です。
・子どもへの贈与:40万ユーロ(約6,400万円)
・配偶者へ:50万ユーロ(約8,000万円)
これらは10年ごとに再利用可能なため、たとえば40歳の親が子どもに20年かけて贈与すれば、最大1,2800万円を非課税で移転できます。
これにより、相続を生前対策に変える文化が根付いています。
【相続税】
相続税率は最大で30~50%と高いですが、贈与による対策がしやすいため、制度的な整合性が取れています。
■フランス:子どもの権利を徹底的に守る「強制相続国家」
フランスでは「強制相続(Réserve Héréditaire)」という独自制度が採用されています。
【強制相続とは?】
・子どもが1人:50%は子どもに自動的に帰属
・子どもが2人:66%を2人で分配
・子どもが3人以上:75%を子に割り当て
つまり、どんな遺言を書いても、最大でも25〜50%しか自由に使えないということです。
これは、「財産は本人のものではなく、家族のものである」という価値観が根強く反映された制度です。
■イギリス:自由度と合理性が良いバランス
イギリスもまた遺言自由主義の国です。誰にどれだけ財産を遺すかは基本的に自由で、遺留分制度も存在しません。
【遺言の自由と例外】
ただし、以下のような例外があります。
経済的扶養を受けていた配偶者や子どもが、遺言によって一切相続できない場合、「合理的な生活費」を請求することができます。
とはいえ、実際に訴訟に発展するケースは少なく、遺言の効力が優先されるのが原則です。
【相続税】
相続税率は一律40%ですが、以下のような控除制度があります:
・基礎控除:約32.5万ポンド(約6,000万円)
・配偶者への遺贈は非課税
・慈善団体に10%以上遺贈すると、全体の税率が36%に軽減される
制度が非常に明快で、税金対策がしやすいのも特徴です。
■シンガポール:世界で最も合理的な相続制度
シンガポールは2008年に相続税を完全廃止しました。
・相続税、贈与税なし
・財産移転の自由あり
この結果、世界中の富裕層が資産保全の目的でシンガポールを選ぶようになりました。
さらに、イスラム教徒に対しては「ファライド」というイスラム相続法が適用され、宗教と国家法が並存する珍しい相続制度が存在しています。
■日本:バランス志向が生む「中途半端」と「トラブル」
ここまで5カ国の制度を紹介してきましたが、では日本はどうでしょうか?
日本の相続制度は、良く言えば「平等性を重視」、悪く言えば「自由がなく、制度と感情の不一致が大きい」と言えます。そして、税金が諸外国に比べて高額です。
【遺留分が強い】
たとえ遺言があっても、以下の遺留分が保障されています:
・配偶者:1/4
・子ども:人数によって等分(例:2人なら1/8ずつ)
・これにより、特定の相続人に財産を集中させることが困難になります。
【相続税が高い】
・基礎控除:3,000万円+600万円×相続人
・税率:10〜55%の累進課税
特に都市部では不動産の評価額が高く、一般家庭でも課税対象に
【生前贈与が難しい】
・7年以内の贈与は相続税に加算
・贈与税の非課税枠は年間110万円と小さい
・相続時精算課税制度もあるが、運用が難解
結果として、「生前から準備しておく」という文化が根づきにくく、“いきなり相続”でトラブルになるケースが多いのです。
■まとめ:相続制度は「文化の反映」であり、「未来の設計図」
相続制度を比較すると、単なる法律の違いではなく、それぞれの国の価値観、歴史、文化が見えてきます。
国名 | 特徴 | キーワード |
アメリカ | 遺言の完全自由・信託文化 | 自由・自己責任 |
ドイツ | 遺留分+戦略的贈与 | 合理性・計画性 |
フランス | 強制相続制度 | 家族保護・義務 |
イギリス | 遺言自由+シンプルな税制 | 実用性・明快さ |
シンガポール | 相続税ゼロ・宗教配慮 | 富裕層誘致・多様性 |
日本 | 遺留分重視・高い相続税 | 平等性・不自由 |
日本が今後取り組むべきは、ただ制度を変えることではありません。
・家族内での「想いの共有」
・事前に遺言・信託・贈与で準備をする文化の醸成
・制度の選択肢を理解し、使いこなす知識の普及
相続は「終わり」ではなく、「未来への橋渡し」です。
各国の制度を学ぶことは、その橋をより太く、より強くするための第一歩になります。
いかがでしたでしょうか?
本日は「世界から見た「日本の相続制度」はここまで違う~各国との比較で見えてくる“本当の課題”~」というテーマでお話させていただきました。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。